豆腐(TOFU)レポート

にがり と すましこ と GDL

主に凝固剤についての硬い話

さてさて、あんんまり変なことばっかり書いていると豆腐屋としてのナニを疑われそうなので、たまには真面目に普通の豆腐屋っぽい事も書かないとアレなようです。
そういうリクエストが身内からありましたので。

個人的には、あまり気が進みませんけれど。

さて、豆腐を固めるには、一般的には にがり、すましこ、GDL があると思います。

○にがり
日本で「にがり」と言う場合、塩化マグネシウムが主成分です。
塩を作る過程で、副産物として生成されますが、工業的に精製される場合も多いようです。
伝統的製法の日本の豆腐は、ほとんどにがりで作るものの事を指します。
日本は四方を海で囲まれていて、塩田も多かったので、にがりを手に入れるのが一番手軽だった事は容易に想像できます。
豆乳との反応がとても早い為、固めるには技術(=手技)が必要とされています。

但し、最近はそうでもありません。
ジュール加熱を使った工業的手法の浸透により、にがりの豆腐を作るのにそんなに技術は必要なくなっています。

しかし、そういう設備は結構高価ですので、うちのような小規模な豆腐屋は、手技を磨いた方が安くて確実。ほんでもって、確実に手作りの豆腐が作れるという訳です。

ぶっちゃけた話、手技と言っても外科医のように命が掛っているわけでもなく、陶芸や絵画のような芸術性が求められるようなものでもありませんので、まぁまぁまぁって感じです。
1年~2年も修行すれば確実に身に付きますよ。
それなりに失敗はたくさんする事になるでしょうけれど。

○すましこ
すましこは、硫酸カルシウムの事です。一般的には石膏として知られています。彫刻とかチョークとかが硫酸カルシウム(=石膏)でできていますね。
中国では、すましこ豆腐の方が多いというような話を聞いたことがありますが、実際どうなのかは知りません。しかし、内陸でにがりは手に入らないでしょうし、岩塩坑からはにがりは取れない(らしい)ので、石膏の方が手に入れやすいであろうと想像できます。

つるんとした食感に仕上がります。
一時流行った中華デザート、豆腐花は、すましこ豆腐+蜜で食べます。
一般的に?、嵯峨豆腐とは嵯峨で作られるすましこの豆腐の事を言うらしいですが、一般名詞なのかどうかちょっと微妙です

すましこの凝固反応はにがりよりもゆっくり進むので、結果として技術的ハードルが低くなります。つまり、手技を磨く必要は無いとされています。(本当かよ?眉唾です。それなりにノウハウが必要だと思うので、そんな簡単ではないと思いますけど。)
つるんとした仕上がりで、煮崩れもしにくくなります。

日本では戦中ににがりが戦時統制品にされたため、代替凝固剤としてすましこが普及したと言われていますが、にがりからジュラルミン作るような状況では、そりゃ戦争にも負けるわなぁ。

○グルコノデルタラクトン(GDL)
漫画「美味しんぼ」によって、完全に豆腐工業化の悪者にされてしまった悲劇の凝固剤(笑)GDLです。
名前から工業的に化学合成されると思い違いをされる事が多いようですが、実際には工業的に合成されるわけではなく、自然界に存在する天然物で、大豆自体にも微量に含まれます。
はちみつに多量に含まれているそうで、 「ハチミツ酸」 の別名があります。酢にも含まれています。
現在ではブドウ糖を発酵させて作られる事が多いようです。

名前で損してるよね、GDLは。ハチミツ酸で売り出しておけばエコ感とナチュラル感がアップして、不当な差別はされなかったかもしれないのになぁ。

「水でも固まる」と言われたりしますが、水だけでは固まらなかったはずです...多分。
しかし、水を抱え込んで固まるのは間違いなく、結果として少ない大豆から大量に豆腐の生産が可能となります。
しかし、「すましこ」も少なからず水を抱え込んで固まるので、GDLだけの特徴ではないのですが、なにかと批難の対象にはなります。

また、GDLの反応は酸による凝固なので味に酸味が出やすく、栗田さんに「すっぱい」と酷評されていましたが、ちゃんと調整して豆腐をつくるとそんなことはありません。(そりゃそうだ)

GDLが「ハチミツ酸」で普及していたら、栗田さんは「自然な酸味があっておいしいわ!!」などと、言う事が180度違っていたかもしれません。
また、そのおかげで、GDLで固めた豆腐はにがりよりも日持ちがするとされています。

豆腐が庶民的価格で長年食べることができたのはGDLのおかげだと思うのですが、そういう面が評価されないのは悲しい限りですね。
誰もがグルメな食品を相応な価格を支払って購入できる訳ではなかった時代に、豆腐を支え続けた立役者と言える凝固剤だと思います(美味しんぼ」ではボロカスでしたけどね)

○で、結局どれがいいの?
個人的な評価ですが
「にがり」が一番おいしいように感じました。
「すましこ」は絹ごしにして冷奴にすると、つるんと喉越しが良くて美味しいと思います。
「GDL」は、個人的には「すましこ」とたいしてかわらんと思います。硬派な硬さが出ます。逆に「すましこ」よりも美味いかも?この辺は主観的なものなのでなんとも...

少なくとも、GDLだからと言って「美味しんぼ」での評価のように、いわれなき差別を受けるようなひどい味になったとは思いません。
以前どっかに書いた鹹豆漿(シェントウチャン)も、酢で固めるのでGDLと同じ反応ですが、とても美味しいです。たまに自分で作って食べまてます。

色々調べてみたのですが、元の豆乳がよいと、どれもおいしく仕上がるようです。
ははぁ~ん、結局うちの豆乳を使うとあんまり差が出ないという事なのか...まいったなぁ(自慢)

もちろん、薄い豆乳で水を抱え込んだ豆腐を作ることも、すましこやGDLなら可能です。
そうすると味に差がでるのかもしれませんが、わざわざ不味い豆腐を作る気にもなれません。
あほくさい。

○結局、美味しい豆腐は凝固剤(だけ)じゃないんだと思います。
確かに、すましこやGDLの特徴を使えば、味気の無い豆腐を作ることが可能ですし、それを悪用した商売を行う豆腐屋がいることも否定はしません。

しかし、先日放送された THE BEST HOUSE 123 (フジテレビ系) で、ものスゴくおいしい豆腐の第2位に入っていた京都の名店、 森嘉 の豆腐はすましこの豆腐でしたね。

「にがりの豆腐でなければならない」などと決めつけるのは感心しません。
そういう権威主義に陥ったような事は、一部のマンガにでも言わせておけばいいのです。
(個人的にはマンガは大好きですが、弊害も無いとは言いきれません)

現場の職人としては 「うまい豆腐でなければならない」 と、思います。
(安全でなければならないのは言うまでもありません)
正直言って「すましこはちょっとなぁ...」と思っていました。
自分自身でそういう思い込みに嵌っていた事は反省せねばなりません。
人々に好まれるおいしい豆腐を、すましこで作っている業者が現に存在しているのですから、認めざるを得ません。

豆腐の世界でも技術革新はあります。
大量生産の技術革新については、うちにはあまり関係ありませんから置いといて、
美味い豆腐に関する技術革新については、知識を得て向上させていきたいと思っています。

それが凝固剤で、にがりよりも豆腐が美味しくなるならば導入をためらう理由は何もないと思います。
すましこを使うと、煮崩れがしにくくなるのは確かですし、GDLを使えば賞味期限を多少伸ばす事ができます。
どちらも、つるつる感は増しますね。
賞味期限については、次亜塩素酸の添加やオゾン水の使用によっても長期保存が可能となる技術がありますが、私には良いとはどうしても思えません。
GDLで多少伸ばすぐらいの方が、人体や健康に関しては良心的でしょう。
(GDLが蜂蜜に含まれている天然物なのは前述の通り)

○最後に
予想通りのつまらん文章になってしまいましたね。
あんまりこういう文章は書きたくないなぁ。
需要があるとも思えん。
こんな文章を喜んで見るのは豆腐屋ぐらいなんじゃないのか?(笑)
結局自慢になるし、なんだかなぁという感じです。

こういう、技術論は人によっても違いますしね。
何がなんでも「にがり」という人に、世の中にどれだけの種類のニガリがあるのかお前は知っているのかと問いたい。問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。

○おまけ
塩化カルシウムも凝固剤として使われます。
主にうす揚げや凍り豆腐用の凝固剤ですが、私は使ったことがありません。

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